亘さんは世渡り上手
男が尻餅をついて亘さんを見上げていた。
到底尻餅なんてつきそうにない、端正な顔をしているのにも関わらず、その人は周りの目なんて気にすることなく亘さんに見とれているようだ。
ネクタイと上履きの色を見るに、二年……だろうか。
「キミ! モデルでもやってるの!?」
「え……? いえ、やっていませんが……」
素早く立ち上がり距離を詰めてくる先輩に圧倒され、亘さんは俺の方へ少し近づいてくる。
そうだ、亘さんは、他人からの好意が苦手なんだった。
「へぇ~、この学校にこんな可愛い子がいたんだ。あ、僕は二年の三好鉄平。よろしくね」
三好先輩は手を差し出す。
その笑顔はすごく爽やかで、さっきまでの流れを知らない人は尻餅をついていたなんて絶対にわからないだろう。
「……一年生の、亘叶葉、です」
恐る恐るといった様子でその手に答える亘さん。
亘さん、ぐいぐい来られるのは苦手なのか。自分からはぐいぐい行くくせに。
……っと、いや、そんなことを考えている暇はない。
「亘さん、集合時間過ぎるよ。早く行こう」
俺は亘さんしか見えていない三好先輩に俺もいることをアピールするために、少し露骨に亘さんに話しかけた。