亘さんは世渡り上手
確かに、俺と文化委員の距離はあと数十センチというところだった。
一応相手は女子だし、俺から少し距離を取る。
「なんだい? かなちょむ、嫉妬かい?」
「し……っ!? ちっ、違います! 和泉くんがもらうなら、わたしももらっておこうと思いまして!」
すねたようにそっぽを向いて手を突き出す亘さんに、文化委員がおかしそうに笑う。
「うんうん、かなちょむやる気あるね! その調子!」
「あ、あたりまえです! やると決めたからには、優勝しかありません!」
亘さんはグッと眉を上げて、胸の前で拳を作る。
それを文化委員は掴んで、近くに引き寄せた。
「表情豊かになったよね、かなちょむ」
「そうですか? あ、いえ……そうですね」
「やっぱり、恋は人を変えるよねぇ」
「え……? え、知って……」
「ん? クラスの半分くらいは察してるよ?」
「うそ……」
うまく聞き取れないけど、なんだか二人は楽しそうだ。
そういえば、前より亘さんは話しかけやすくなったと聞こえてきたことがあったな。俺や谷口の前以外では極めてまれだった笑顔も、日に日に見る機会が多くなってきた気がするし。
亘さんはちゃんと順調なんだな。
じゃあ後は、三好先輩のことか……。
あの顔を思い出すだけではぁ、とため息がもれる。