亘さんは世渡り上手
あの昼休み以来、三好先輩の姿を見ることはなかった。
俺はそれがどうしても気がかりで、喉に小骨が刺さった気分だ。ちくちくと喉から、心臓の方へ痛みが走る。
先輩は決して悪い人じゃない、と思う。
俺の一時の感情で、あるかもしれなかった先輩と亘さんが仲良くなる世界を消してしまってもいいのだろうか。
俺は、三好先輩には絶対に負けたくない。
だからこそ、土俵から無理矢理押し出すんじゃなくて……ちゃんと、ぶつかり合うべきだ。ぶつかって、結果負けてしまったら、それはそれまでだ。俺の実力が足りなかったのだろう。
うん、それならもやもやしない。
「……よし」
明日は勝とう。
俺は周りを見渡して、自分の席でお化け屋敷に使うビニール袋を切っていた高橋に目を留める。
「高橋、ちょっといいか?」
「お、なんだ?」
「文化祭のときも、前みたいに髪いじってほしいんだけど」
「マジ!? いいぜー! あっ、おい宇佐美! 理人に似合う髪型また考えよーぜ!」
楽しそうに宇佐美を呼んで話し合いを始めた高橋はもう俺のことを見る気配はなく、若干悲しい気持ちになりつつ俺も作業を始めた。
優勝しなきゃいけない理由ができたからには、全力でやらないとな。