亘さんは世渡り上手
「理人!」
休憩時間、伸びをしながら外の空気を吸っていた。
いよいよ次はミス・ミスターコンテストだ。少し緊張を含んだ気持ちで持ってきた水を飲んでいると、谷口が俺を追ってやってくる。
「あ、谷口……どうした?」
「え、えっと……頑張ってね! 応援してる」
若干頬を赤らめて言う谷口。俺はその言葉を素直に受け取って、静かに頷いた。
「うん、ありがと」
「あっ……あのさ!」
そこで、谷口がぐっと前のめりになる。
「今日、終わったら、ちょっと時間くれないかな? 十分くらいでいいんだけど……」
強張った表情だけど、しっかりと笑う谷口。
谷口も何か緊張しているようだった。
俺は自分の緊張を悟られないようにして、谷口に一歩近付く。
「わかった」
谷口は、ほっと息を吐く。
たぶん、意味の違う緊張なんだろうけど。それでも、俺達の空気は落ち着けるものじゃなくて。
なんとなく、鼓動が早くなる。それがまた余計に緊張を促進させてくるのだ。
何か会話をしないといけないような気分になる。そうすると自然に、共通の話題に行き着いてしまった。
「……か、叶葉も張り切ってたよ」
「そ、そっか」
「でも、もし、二人とも優勝したらさ……」
谷口が、俺をまっすぐと見据える――
「私はあんまり、嬉しくないな」
そうして谷口は、逃げるように中に入っていったのだった。