亘さんは世渡り上手
舞台袖。鏡で自分の姿を確認する。
高橋にセットしてもらった髪に、早寝をして整った肌。最後に、何年も練習した完璧な笑顔を張り付ける。
「和泉くん、和泉くん」
亘さんがくいくいと俺の袖口を引っ張って、口角を上げた。
「ど、どうですか、わたしの笑顔」
「うーん、ちょっと固いかな」
亘さんは、谷口にしてもらったメイクに、八木のヘアセット。まさに完璧な美少女だった。
固いといっても、もちろん可愛い笑顔だ。思わずめまいがしそうなくらいに。
「亘ちゃん、久しぶりだね。会いたかった」
眩しいオーラをまとってやって来た三好先輩は、いつも通りだった。
「あ……」
亘さんは怯えたような声を出す。でも、俺が前に出ようかと体を動かそうとするのを制してきた。
自分でちゃんと、谷口に言われたのもあるのかもしれないけど、三好先輩に向き合う。
「わたし、あなたのお気持ちにはお応えできません」
すみません、と頭を下げる亘さん。
三好先輩はあはは、といつも通り笑っていた。
「僕、告白なんてしてないけどね」
「それでも、ごめんなさい」
「あー、うん。僕こそごめん。まだ諦めないからさ」
ね、と俺に目配せしてくる三好先輩。
な、なんで俺の方を見るんだよ。