亘さんは世渡り上手
三好先輩は優しく微笑みながら、亘さんに向かってゆっくりとゆっくりと言葉を噛みしめるように話す。
「人の気持ちはね、変えられるんだ。たとえ亘ちゃんに心に決めた人がいたとしても、それがずっと続く保証なんてできないでしょ?」
「そんなこと……」
「うん。ないって思うでしょ? それがどうして思えるのかと言うと、自分を信じてるからなんだ。自分を信じる気持ちが強ければ強いほど、信念っていうのは貫けるんだ」
自分を、信じる……。
それは、俺にも、亘さんにも、足りなかったことだ。
俺の気持ちが揺れていたのは、谷口が頭の片隅でちらついていたのは、俺が、信念を貫けていなかったから……。
心のどこかで、本当に亘さんでいいのかと思っていたから。
「僕はね、もうこれ以上ないってほど自分を信じてる。失敗なんてないと思ってる。だから、僕が負けることはないんだよ」
俺は、ここまで自信に満ち溢れた人を見ることなんてもうないだろう。
そう思わせるくらいに、彼は周りの目なんて気にしていない。
「もし、先輩が負けたら……?」
俺の口から、ポロリと溢れ落ちる。
どうして俺はそんなことを思ってしまったのだろう。
俺は勝たないといけないのに。
三好先輩よりも、自分を信じないといけないのに。
「ふふ。もし、僕が負けることがあったらね。それは……キミの勝ちだ」
怖いくらい綺麗な笑顔に、体が震えた。
いや……これは……。
武者震い、だ。