亘さんは世渡り上手
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「勝っちゃったね。二人とも」
「そうだな。谷口は……嬉しくないのか?」
「うん……なんか、さ。二人だけがどんどん遠くに行っちゃうような、そんな感じ」
困ったように笑う谷口。
文化祭一日目が終わって、各自帰っていく時間。俺は、スロープに取り付けられた手すりに持たれて秋の夕日を眺めていた。
隣には谷口。終わってから十分程度時間がほしいと言われたけど、一体なんの話をするつもりなんだろうか。
もしかして……。
「理人、今日、かっこよかったね」
「……ありがとう」
「……うん」
なんともいえない空気が流れる。
気まずいというわけではないけど、緊張しないわけでもない。
それも谷口の表情がよく読めないからだ。穏やかな顔なのに、緊張しているようにも見える。表情に反して言葉がたどたどしいから余計にそう見えるのかもしれない。
「私ね」
谷口が手すりから背中を離して、俺をまっすぐと見つめる。
サァ、と風が吹いた。
「理人と仲良くなれてよかった」
……なんだ?
何かが、終わる予感がする。
「入学式のときから、気になってたんだよね。仲良くなりたいなって思ってたら、高橋が軽く理人に絡んでたから、私も便乗してさ」
このまま行けば、たぶん谷口は……。