亘さんは世渡り上手
「最初の頃は、理人に嫌われないように頑張ってたなぁ。あはは、私も猫被ってたかも。理人と変わんないね」
谷口は独り言のように話し続ける。
まるで、俺じゃない誰かを見ているように。
「叶葉がいつものメンバーにいるようになってからは、実を言うと、結構楽しかったりもしたんだよね。認めたくなかったけどさ」
目を伏せて、髪を耳にかける。
その何気ない動作に虚しさを感じるのはなぜだろう。
もうすぐ、終わってしまう。
「――――好きです」
……終わりだ。
「私は、和泉理人のことが、好き。だから、付き合ってください」
いつも元気な谷口の、真剣な姿を見てしまったら、そんなの、目を逸らせるわけないじゃないか。
俺は、もう体育祭のときとは違う。
ずっと俺に本物を与え続けてくれていた彼女に愛を教わった。
俺の父さんだけだった世界に明かりを灯して、猪突猛進してきた。
そのおかげで空間にヒビができて、ガラガラと崩れて、世界が広くなった。
谷口は確かに、俺の大切な人だった。
もう逃げない。
嘘をつかない。
自分を騙さない。
俺はそう決めたんだ。