亘さんは世渡り上手
「ごめん。俺は亘さんが好きだから」
ほんとにごめん。
散々期待させたよな。
「……知ってるよ」
「うん」
「でも、しょうがないじゃん。好きなんだから」
「そうだよな」
「やだよ。私を見てほしいよ」
「……うん」
「好きになってほしいよ……」
谷口は泣かない。
消え入る声の中でも、絶対に諦めないという信念が感じられた。
「あのねぇ! 失恋に、慣れなんてないんだから」
バッと顔を上げた谷口。
「何回だって痛いんだから! バーーーカ!!」
そして、俺の頬を思いきりつねった。
痛い。
俺がじゃなくて、谷口の心が。
俺は自分に自信なんてなかったから、どうして谷口が俺なんかを好きになってくれるんだろうと思っていた。
でもそれって、失礼なんだよな、谷口に。
「私を振ったこと、許さねー! 叶葉に振られて、めちゃくちゃ後悔しろコノヤローー!!」
捨て台詞を吐き、バタバタと足音立てて去っていく後ろ姿。
俺は彼女が顔を拭ったのを見逃さなかった。
ヒリヒリとして、熱くなる両頬。じんわりと広がっていく感覚に胸が苦しくなる。
彼女は最後まで谷口悠里であり続けたのだ。