亘さんは世渡り上手


谷口、俺は後悔なんてしないよ。


後悔するときがあるとするならば、それはすべてをなかったことにしたときだ。


谷口からの告白も、亘さんへの恋心も。


愛なんてゴミみたいなものだと思ってたけど、全然違った。


愛は確かに苦しいけど、嬉しいよ。


下を向けば、まっすぐに伸びる自分の影が目に映った。


俺はそれに付いていくような、連れていくような、そんな気持ちで前に歩き出す。


もうすっかり人が捌けて静かになった道は哀愁を漂わせていた。谷口の姿すらもう見えない。足早いな。



「―――あ、い、和泉、くん」



少しかすれたその声に足を止める。


目線は下のまま。俺の影と彼女の足がくっついている。


その影を辿るように、俺は顔を上げた。



「……亘さん…………」


「ええと、待つつもりはなかったのですが、やっぱり気になってしまって……。とてもゆっくり歩くようにしていたら、悠里ちゃんが走り去っていってしまったので……」



言い訳のように言葉を紡がれる。



「あの、お話の内容は一切聞いていませんので……聞いては、いないです……が……」



なんとなく、何があったのかはバレているだろう。


俺は隠すつもりはないし、特に動揺はしない。


俺よりも亘さんの方が動揺しているように見えた。

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