亘さんは世渡り上手
「……谷口に告白されたよ」
俺は世間話のように口に出す。
亘さんの体がビクリと跳ねた。それは、怯えに近いなにかだと思う。
「そう、ですか」
「亘さん、前に言ってたよな。谷口のこと、ちゃんと自分で考えとけって」
確か、体育祭のとき。
あのときの俺は不甲斐なかったから、亘さんからの助けに安心していたけど。
でも今は、そんなわけにはいかない。
「俺、ちゃんと自分の気持ち、自分の言葉で伝えられたよ」
そうやって優しく微笑みかけると、亘さんは少し身じろぎをしてぱくぱくと口を動かす。
開いては、閉じて。そんなことを三回くらい繰り返した後、恐る恐る、ようやく声を出した。
「――な、なんて、答えたんですか?」
舞台上での笑顔なんて嘘のように強張った表情だ。
よっぽど緊張していることがうかがえる。亘さんなりに遠慮しようか迷ったけど、好奇心には負けてしまったというところだろうか。
谷口に言ったことをそのまま言ってしまうと告白になってしまう。それはどうなんだろう、さっき谷口を断ったばかりなのに。
……いや、待て。
亘さんは察しているはずだ。俺が谷口を断ったって。
今までの亘さんからして、こういうときは空気を読んで何も言ってこないんじゃないか?