亘さんは世渡り上手
「先輩は、亘さんのこと、本当にもういいんですか」
「ん? まぁ、負けたからね。そのせいで僕は少しだけ自分に対する自信が薄れたから、今は傷心を癒しているのです」
癒し方が気に入らないっていってるんだけどな。先輩から自信がなくなっても困るし、俺には関係ないから口にはださないけど。
頭に手を置かれる。男に頭を撫でられるなんて、一体どんな罪を犯したらされることなんだ……。
「大丈夫、キミはいい男だ」
その笑顔に、ぞぞぞ、と全身に寒気が駆け巡る。
慌てて手を弾いた。
「きっ、気持ち悪い!」
「あはは、いい反応だねー」
「昨日からなんなんだよ!」
この人、本当に頭沸いてるのか!?
ダメだ、何を言っても笑って返される気しかしない。
「ほら、もういいですからさっさと入ってください! 受付しておいたんで!」
名簿へ雑に記名をして、三好先輩を教室の中へ押し込んだ。
「ありがと、いってきまーす。あ、暗いね~」
「こわーい」
「助けて鉄平~」
「うん、掴まってていいよ」
暗闇に消えていく男女三人。
俺は、ようやく肩の荷がおりて息を吐いた。前から次の受付役が歩いてきたのが見えて、もう少し早く来いよ、なんて思う。
と、そこへ、
「あのー、ちょっといいですか?」
後ろから声をかけられて、振り向く。
――皐月が立っていた。