亘さんは世渡り上手


一瞬、ビクリと体が跳ねる。


いや、高橋が招待する可能性は十分に考えていた。だけど、さすがに一人で来るなんて思っていなかったのだ。


友達とか、それとも高橋が案内するとか。だから、二人で話す機会がある可能性なんて、考えていなかった。



「理人くん、啓介くんはどこかわかりますか?」


「え、あぁ……まだ教室の中だよ。後五分くらいしたら休憩だと思うけど」


「あ、そうですか。じゃあ、それまで一緒にいてくれませんか?」


「えっ? いや、その、俺も仕事が……」


「さっき休憩時間だって言ってませんでした?」



そこからいたのかよ。


さらには次の当番のやつが「理人ー、交代ちょっと遅れてごめん!」と話しかけてくる。


タイミングが悪すぎる。



「……もしかして、私の相手したくないですか?」



皐月が苦い顔で聞いてくる。


……正直、皐月のことは少し怖い。


高橋に対する恋心だとか、俺に対する態度だとか。怪しいところが多すぎて、下手に関わると今の安定した日常が折れてしまいそうで、怖い。


それに、もうすぐで休憩であろう亘さんと一緒にいるタイミングを逃すわけにもいかない。

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