亘さんは世渡り上手
今の亘さんはすっかり人気者だし、他の男にいつ横取りされるかたまったものじゃない。
でも……。
目の前の知り合い――一人でいる友達の彼女――を放っておくわけにも、いかないか。
「えっと……わかった。でも、あんまり遠くにいくわけにもいかないし、前で待ってていいんじゃない?」
「うーん、まぁ、そうですね。理人くんとお話ができたらそれでいいですし」
え? 俺と話すのが目的なのか? 一人でいるのが不安ってことじゃなくて?
不信感を覚えながらも、俺達は教室の前で手すりの付いた壁に寄りかかる。
「あのさ、皐月。前から聞きたかったんだけど……」
本当は高橋のこと、どう思って……
「――理人くん、今度私の家に来ませんか?」
「……え?」
真っ黒な皐月の瞳。
あ、これは。
何かを企んでいる目だ。
「友達の彼女の家に、そうほいほいと入れないよ」
俺は気付かないふりをしてかわした。
「……ふふ。そう、ですか。まぁ、今はそうですよね」
今は?
なんなんだ、この節々から感じる不安は。
あの夏祭りの日から、皐月に黒いもやがかかって見える。
「あ、じゃあ、ライン交換しませんか? 一度一緒に遊んだことあるのに交換してなかったじゃないですか。友達として、ってことで」
ね? と笑いかけてくる皐月。
俺は断る言葉を組み立てようとしたけど、焦って時間が足りなかった。