亘さんは世渡り上手
「いつでも連絡してきていいですよ」
「……しないよ」
「そうですか」
これで皐月がおとなしくなるなら、我慢するか……。
「じゃあ、してもらえるように頑張りますね」
「だから、しないって……」
「しますよ」
冷やかな声とともに、ネクタイを引っ張られる。
今までにない強引な態度に目を見開いていると、至近距離の皐月はさっきよりさらに強く言った。
「理人くんは、私に連絡します」
一体どこからの自信なのか。
何を企んでいる? 俺に、何を求めているんだ?
嫌な汗が背中を伝う。俺が、皐月に感じているのは、恐怖だ。
その後にパッと手を離すといつもの笑顔なのだから、なおさらだった。
「……なぁ、おまえ、なんなんだよ」
俺の中で張りつめていた糸が切れる。
「なに、とは?」
「わかってるだろ」
「言葉にされないとわからないですね」
あくまでしらを切るつもりか。
「何を考えてる」
「文化祭、楽しみだなぁ、とか?」
「……そういうことじゃない」
「せっかくのお祭り気分なのに楽しくないなんて嫌じゃないですか? 今日くらい楽しみましょうよ」
「このままじゃ楽しくなれない」
「私は目一杯楽しませてもらいますね」
そのとき、出口から三好先輩が出てきた。
仕方なく睨み付けるような目を引っ込める。