亘さんは世渡り上手
頼むから今日くらいは平穏であってほしい。
皐月の思惑通りになんて絶対にならない。
三好先輩が手を振って去っていこうとしていたので、咄嗟に会釈をする。そうやって、俺の意識が三好先輩に移ったとき。
「じゃあ、文化祭、楽しみましょうね」
そんな皮肉にも取れる言葉を吐いて、皐月はにっこりと笑った。
「あ、皐月ちゃん! ごめんごめん、待たせちゃったね」
「啓介くん」
高橋が急いだ様子でやってきて、俺は強張った表情をどうにか和らげようとする。
高橋の前で皐月を敵視するなんて……できないよな。
皐月に対する不信感が強くなるのに比例して、俺の頭には高橋の笑顔が見え隠れしてしまう。楽しそうな高橋の笑顔を奪ってまで、皐月を非難するなんて……。
「理人くんと話してたからすぐだったよ」
意味深に俺に向かって微笑む皐月。
肯定するべきかどうか悩んだ一瞬で、高橋は訝しげな表情を浮かべた。
「理人……何もしてないよな?」
「何って……なんだよ」
「皐月ちゃんを口説いたり」
「するわけないだろ」
「だよなあ」
高橋が快活に笑うと、俺の張り詰めていた緊張が少しほどける。
皐月と二人きりは、息が苦しくなる。