亘さんは世渡り上手


俺の数学の教科書を二人で覗き合って、俺はわからないところをトントンと二回指の腹で叩く。


確か亘さんは入学式で生徒代表の答辞を読んでいたし、頭の良さはお墨付きだろう。


ここは素直に教わっておきたい。



「ええと、ここはこうすれば……」


「うーんと……あ、解けた」



パッと顔を上げると、亘さんと目が合った。



顔が近い。



「……」


「……」



肩が触れそうで触れない微妙な距離。


二人とも黙ったまま、見つめ合っている。



……何、やってるんだ俺。


なんでこんな、亘さんと良い雰囲気になろうとしている? っていうか、亘さんも何か言えよ。離れろよ。


心臓が嫌な音を立てる。


亘さんの何を考えているわからない表情の中でも、なぜか目だけは吸い込まれそうだった。


体が動かない。



――嫌だ。また、見透かされてしまう。



亘さんの大きな瞳にはなんとも言えない表情の俺が映っていた。

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