亘さんは世渡り上手
「ひっ! 何!? 胸が私よりあるっていう自慢!?」
「わたし、悠里ちゃんにもうひとつ渡したいものがあるんです」
そう言って、亘さんが谷口の手のひらに乗せたのは……。
『88』とマジックで書かれたハートの紙だ。
「な、なにこれ」
「運命の人ゲームで配っていた紙です。これを左胸に付けて、同じ数字を付けた人と出会ったら運命ですね、というゲームです」
「し、知ってるけどさ。さらっと酷くない? 早く新しい男を見つけろってこと?」
「違います。これは、わたしと悠里ちゃんの運命です」
「は……?」
亘さんはもう一枚紙を取り出す。そこにも『88』と書かれていた。
興味本意で亘さんがゲームに参加してもらった紙と、教室の前で偶然落ちていた紙が同じ数字だったのだ。
「あなたはわたしの運命の人です」
拾った瞬間から、亘さんはそう言い続けている。谷口のことを考えていたら拾った紙なのだから、と。
「な、なんか、うまいこと丸め込まれそうになってるけど……騙されないからね!?」
「ええと……つまり、わたしは悠里ちゃんのことも好きですと伝えたくって……」
「今朝聞いた! キモい!」
「ガーン!」
谷口はお化け役のためのロングウィッグを被って、顔を隠した。
これは、照れてるな。
もうすっかり丸め込まれてるじゃん。
ちゃっかりハートの紙を受け取っている谷口。あまのじゃくにも程がある。