亘さんは世渡り上手
最終章『家族』
俺と皐月
亘さんと付き合うことになった。今更ながらそんな実感が湧いてきて、落ち着かない。
その事実だけが夢心地で、もしかすると夢なのではないかと思うくらい。
だから俺は学校に行く足取りもしっかりしなくて、頭もよく働いていなかった。
「皐月ちゃんの音沙汰がない……」
――高橋の、そんな焦った声を聞くまでは。
俺とは対照的に高橋は気が動転しているのか、また違う意味で落ち着かないようだった。
俺は幸せな気分から一転、闇に堕ちたように心が落ち込む。
「どうしよう理人、俺、なんかしちゃったかなぁ!?」
「落ち着け、高橋。心当たりがないなら、たぶんおまえは何もしていない」
なんなんだ、皐月のやつ。
「やっぱり……」
びっくりした。後ろに亘さんが立っていた。
「やっぱりって!? なんか心当たりあるのかよ、委員長!」
「いえ、わたしは、何も……」
亘さんはちらりと俺を見る。
「和泉くんは?」
……え?
「和泉くんは、何もないんですか?」
え、俺、亘さんに疑われてる?
何かを探るような目に、少したじろぐ。
確かに、心当たりというか……。
皐月は、俺から連絡をしたら出るだろうという確証は、ある。