亘さんは世渡り上手


ただしそれを高橋の前で言うのはどうなんだ。


どう考えたって、皐月は俺となんらかの関係を持ちたがっている。そんなの高橋の耳に入れば、ただでさえ不安定な今の状態に拍車をかけるだけだ。


俺は突き刺さる亘さんの視線にわざと背いて、口を開く。



「皐月は、宇佐美の彼女の友達だろ。そこから、なんか聞けるんじゃないかな」


「……っ! おいっ、宇佐美!」


「聞こえてた。今ライン送ってる」


「ありがと! あぁ……もし事故にあってたりしたらどうしよ……」



……皐月はたぶん、元気だ。


俺は高橋に誤解されたらまずいと思って、文化祭のとき、皐月からの接触を拒んだけど。


高橋をこんな風にさせることになるんなら、皐月の策にはまりにいってもいいのかもな。


全部皐月の思い通りなんだろう。でも、それでもいいよ。


自分を好きだと言ってくれる人さえ蔑ろにできるほど、俺としたい話があるんだよな。


俺の皐月への怒りはどんどんと増幅していく。



「ねぇ、返信、来たけど……」



宇佐美がスマホを微妙な顔で見たまま、かすれた声を出す。



「あの子、しばらく学校にもいってないってさ……」



高橋の顔色が青くなっていく。


俺はもう、我慢の限界だった。

< 226 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop