亘さんは世渡り上手
『私、生まれたときからお母さんがいなかったんだ。だからあの人が来たとき、すっごく嬉しかった。
嬉しかったんだ……。
優しいし、面白いし、すぐに大好きなお母さんになったよ。
でもね、夜な夜な聞こえてくるの。
「ごめんね……ごめんね……」っていう声と一緒に、あの人は毎晩泣いてた。
私は力になりたくて、事情を聞いたんだ。そしたら理人っていう息子がいて離ればなれになっちゃったとか言うの。
は? って思ったよね。
あの人が見てたのは私じゃなくて理人くんだったみたい。あの人が優しくしてたのは私じゃなくて理人くんだった。
理人くんが憎かった。
あの人は自分の話を聞いてくれる人を探してたみたいで、私が受け入れたふりをしたらペラペラ話し出したよ。
……やっぱり私のことを娘なんて思ってなかったんだね。
自分が何をしたのか、何が起こったのか、何が悪かったのか。
もう二度と姿を見せるなって前の夫に怒鳴られて……とか、自分が悪いくせに慰めてほしそうだった。自分は新しい男を作ったくせに。
嫌いだよ、あんな女。でも、理人くんのことも嫌い。
全部嫌いなの。
私は、ほしいものも嫌いになっちゃったの……』