亘さんは世渡り上手
「……和泉くんは」
距離の近いまま、亘さんは口を開く。
心音が頭の中でドクドクと響いて、全身に血が駆け巡っているのが体感できているような、嫌な感覚。
俺は、亘さんの話を聞いてもいいのか。
話を逸らすべきじゃないのか?
早く勉強に戻ろうと、わからないところをまた提示すればいい。
そして、からかうように「ドキドキしちゃった」と。
そう言えばいい。
そう言えばいいのに。
「――――和泉くんはいつも、不安そうですよね」
ああ……。
またそうやって、亘さんは俺の首を絞めようとするのか。
「どうして、そう思うの?」
声が震えた。
こんなの、動揺しているのがバレバレだった。
「どうして、ですか……。どうして、でしょうね」
知るかよ。俺に聞くなよ。
亘さんは危険な人物だ。
勝手に俺に何かあると思い込んで、それを暴こうとしてくるんだ。
頼むから、今はそういうことにさせてくれ。