亘さんは世渡り上手
皐月と通話を終えたころには、授業はもう始まっていた。
二人でサボりか。亘さんは言わずもがな、俺も真面目にやってきてたからそんなに怒られないはず。
「な? 全然そんな雰囲気じゃなかっただろ?」
そして、皐月は俺を好きなんじゃないか、なんていう誰も得をしない勘違いをしていた亘さんにはしっかり伝わったと思う。
俺と皐月は――悪魔みたいな女に振り回される運命を辿った、かわいそうな二人ってわけだ。
俺があんまり驚いてないのは、どこかで引っ掛かりがあったからなのかも。
反対に亘さんは、そんなことわかるわけもない。
「そうですね……。好きとか嫌いとか、そんな言葉で表せるものじゃ、とても……」
「まぁとにかく、俺からしたら誤解が解けてよかった」
「そ、そんな呑気な……」
もちろん、わかってる。
俺とあの女はもう他人だ。でもそれはやっぱり形だけ。
血はきっちりと繋がってしまっているし、他人の演技をして会うことなんてできるわけがない。
「一人じゃ不安だよ」
亘さんをじっと見つめる。
「ここまできたら、亘さんも関わってくれるよね?」
亘さんと二人なら、俺はあの女を他人にできる。
キミはそんな勇気を俺にくれるんだ。