亘さんは世渡り上手


高橋の方に目を向けると、宇佐美と普通に話していた。


いや、普通なわけないんだけど。


でも、気丈に振る舞う気力は残ってるなら、まだ大丈夫かな。



「そうだ。谷口、ノート見せて」



俺はふてくされた八木に頭を下げ続ける谷口に向かって言った。



「な、なんてふてぶてしいヤツ……!」


「もう何言ってもそういう反応するだろ」



いちいち谷口に罪悪感を覚えるのも疲れる。


こういう反応をした方が谷口も生き生きするところを見ると、気を遣うよりよっぽどましな気がしてきた。


亘さんが無理矢理谷口と仲良くなったときみたいに、谷口に対しては図太いくらいがちょうど良いのかもしれない。



「別に見せるのはいいけど……その代わり、ひとつ条件がある」



あれ? これさっき聞いたな?


谷口は人差し指を立てて、ぐっと眉を吊り上げた。



「ケン先輩に彼女がいないか調査してきて」


「……自分で聞いたら?」


「やだぁ! もう顔忘れられてるかもしれないじゃん!」


「それなら俺のほうが忘れられてると思うけど……」


「せっかく、やっと理人から乗り換えしてあげようって言ってるんだから協力してよ!」


「男を電車みたいに言うな」



ふてぶてしいのはお互い様じゃないか?

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