亘さんは世渡り上手
「へぇー! じゃあ、亘ちゃんと付き合えたんだ!」
「まぁ……そう、ですね」
「僕が負けただけあるなぁ。ていうかどう見ても両想いだったけどね」
「えっ、気付いてて勝負してたんですか!?」
「いや、あれは誰が見ても……和泉くんって意外と鈍感だよね」
鈍感……というよりは、信じられなかったんだ。自分の好きな人が、自分を好きになってくれるなんて。
それも全部、過去の話ではあるけど。
「よし、着いたね。たのもー!」
三年の教室でピタリと止まった三好先輩は、なんの緊張感もなくずかずかと教室の中に入っていく。
誰も変な目で見ないどころか、「三好くんだー」と名前を呼ぶ先輩までいる。顔広すぎだろ。
俺はタイミングを図る間すらなくして、おずおずと三好先輩に続く。
「どうも、剣持先輩」
そして、目当ての人の前で立ち止まった。
剣持健太郎。あだ名はケンちゃん。剣道部元部長で、現在はもう引退している。情報源は谷口。
いきなり話しかけられた剣持先輩はぽかんと口を開けて固まっている。そりゃそうか、いきなりすぎるもんな。
「えっと……キミは?」
「一年の和泉理人です」