亘さんは世渡り上手
俺と母親
俺は、電車に揺られていた。――隣に皐月を添えて。
どちらも話し出そうとしない無言の空間。
「……皐月は、高橋を利用してたのか?」
先に口を開いたのは、俺だった。
皐月は微動だにすることなく、向かい側の外を眺めて口だけを動かす。
「そうだよ。全部、理人くんにに近付くため。会う前、見せてもらった写真に啓介くんと……後ろに理人くんが写っていて、理人くんも来るっていうから行ったの」
まるで溜め込んでいたものを一気に吐き出すように、すらすらと溢れ出る皐月の言葉。
淡々と話す中にも垣間見えるためらいが、事の重みを表していた。
「……酷いな」
「あはは……。……でも」
皐月は、膝の上の拳を強く握る。
「彼は、啓介くんは、眩しすぎる。邪な気持ちで一緒にいる私のことなんて気付かずに、純粋な、真っ白な笑顔を向けてくるの。私はこのままじゃ彼に申し訳ないと思って……告白は、断ろうとした」
なのに、と皐月。
「なぜか、手を取ってしまった。無意識に。もっと一緒にいたいって、思ってしまった」
「それは、高橋のことが好きってことなんじゃないのか」
「……好きになんて、なれないよ。理人くんが実際にあの女と会ってくれるまで、私の心は啓介くんに向かないの」
「今から会いに行ってやるだろ」