亘さんは世渡り上手
解きかけの問題を再開する。
会話なんてない。
それでも亘さんは、俺をずっと見つめていた。
どうして俺は亘さんのことがわからないのに、亘さんは俺のことがわかるんだ。
錆び付いて開かなくなったはずのドアを、亘さんがこじ開けてくる。
俺は、亘さんが嫌いだ。
無表情なところが嫌いだ。
じっと見つめてくるところが嫌いだ。
友達が多いところが嫌いだ。
素直なところが嫌いだ。
行動力のあるところが嫌いだ。
……だけど、俺のことを見透かしてくるところは、嫌いじゃない。
だって本当は俺も、このドアを開けたいんだ。
亘さんがうらやましい。
友達が多いところがうらやましい。
素直なところがうらやましい。
行動力のあるところがうらやましい。
俺とは違うところが全部、うらやましい。
「……亘さんといると、調子が狂うよ」
「そうですか? わたしは……和泉くんといると、頑張ろうって思えます」
「はは、何それ」
「和泉くんみたいに……その、優しくなろうって、そう思いますよ」
……え?
あー、そうか。亘さんは俺の本当の姿を知らないから。
こんな、心の内が真っ黒で、すぐに人を嫌いになるような俺を知らないからこんなことが言えるんだ。
かわいそうな亘さん。
早く亘さんも、俺のことを嫌いになればいいのに。
そうすれば、亘さんとこうやって話すことはなくなるのに。