亘さんは世渡り上手


ふ、と笑って、こっちを見る。


ただし、それは決して嬉しい笑顔ではない。



「初めは理人くんに近付いて行こうとしたんだけどね、無理だったよ。あの女の大事な、私より大事な、たった一人の息子。憎すぎて、嘘でも好きになる演技なんてできなかったなぁ」



失敗したなぁ、なんてぼやくのに、俺は口を挟まなかった。


皐月なりにも、後悔しているのだ。後悔してしまうほど、高橋の存在は雑なものではなかった。


それがわかっただけでも、俺の怒りは少しおさまる。


きっと皐月は、これが終われば高橋のことを考えるだろう。しっかりと自分の気持ちと向き合って……そして決断する。


それが良い結果だろうが悪い結果だろうが、結果を出すなら俺は満足だ。


その後どうするかは、二人の問題だからな。


俺はこっそりとスマホを操作して、亘さんから返ってきた『完了』のスタンプを見て画面を落とす。


さあ――これで最後だ。


あの女に会うのも、あの女のせいで誰かが苦しむのも。


俺があの女を許すことは一生ない。でも、俺の知らない間に勝手にに幸せになるなら、なればいい。


アイツの家族は、もう俺ではなくて皐月なんだから。

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