亘さんは世渡り上手
「……ここが、私の家」
キィ、と皐月は門の戸を手前に引く。
一軒家の、どこにでもあるような家だ。ここに、アイツが住んでいる。
俺は今日、アイツと縁を切りにきた。俺に対する執着心がある相手にとって、一番心を抉るやり方。
きっとそうでもしないと伝わらない。
「……どうぞ」
「……お邪魔します」
皐月に続いて、家の中に入る。
「今いるのか?」
「いる」
皐月の目が険しくなる。
リビングに通じる扉のドアノブにかける手に、少しためらいを含んでいた。
「俺が開けようか?」
「ううん。私がやる」
ゆっくりと深呼吸をする皐月。
ああ、こいつも怖いんだ。
俺が来ることによって、ここの家族が終わってしまう可能性がある。そうなった場合、その責任は皐月に来てしまう。
それでも、皐月は変化を求めている。無理やりにでも気付かせようとしたいんだ。
しょうがないな。ここまで来たんだ。今さら引き返せるわけがない。
って、これ……完全に亘さんからの受け売りだな。
「いくぞ、皐月」
「―――うん」
そして、皐月はドアノブを掴んでドアを開けた。