亘さんは世渡り上手


ドアを開けた先。リビングには――誰もいなかった。



「い、いない……」



俺たちは拍子抜けする。



「待ってて。探してくる」



……俺をひとりにするのか。


とはいっても人の家をうろうろするわけにもいかないし、仕方なく頷いた。



「……そこのソファに座ってていいよ」



言われるがまま、おずおずと座る。


そのとき、ポケットからクシャリと音が鳴った。


そうだ。これを持ってきたんだった。


それは、写真だ。


俺がアイツへの思いを捨てきれていなかったときに、唯一残していた家族写真。


これは、きっともういらないだろう。だから今日はこれを処分する目的もある。


廊下からバタバタと音が聞こえてきた。


皐月はアイツを見つけられただろうか。


俺は、覚悟を決めておもむろにソファを立ち上がった。



「どうしたの皐月ちゃん、何かあるの?」


「いいから、中入ってくださいっ」



ぐいぐいと押されながらリビングに入ってきたその姿は、まさしく。


皐月と目が合った。


さて、始めるか。




「え……? ――――理人?」




覚悟してきた俺とは違って、そいつは呆然と俺を見つめていた。

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