亘さんは世渡り上手
「やだ……な、なんでこんなところに理人が……。私ったら、幻覚でも見てるのかしら……」
「残念ながら、現実だよ」
俺はゆっくりと近付いていく。
一歩近付くたびにソイツの顔は青くなっていき、やがて地面に座り込んでしまった。
「ご……ごめんなさい。ごめんなさい、理人、私……どうしたらいいか……」
恐怖にも似たその表情は、まるで自分が産んだ相手に向けるようなものではない。
なんだ。コイツも、俺が怖いのか。
「急に謝られても意味わかんないし」
ただし俺はもう怯まない。ソイツは俺が発した言葉に、びくりと体を震わせた。
皐月も、冷ややかに自分の母親を見下ろしているだけだ。その中で別の感情を読み取るとしたら、緊張……だろうか。
「今日は、アンタに会いにここまで来たんだ」
涙目で見上げてくるのに対して、俺はさっき手に持った写真を見せつけた。
「それって……」
ソイツは少し期待に満ちた顔をした。
どうせ、まだ家族写真を持っていてくれたんだ、なんて考えているのだろう。
それは違う。
俺は目の前で――それをビリビリに破いてやった。