亘さんは世渡り上手
俺がこの会話に口出す筋合いはない。大体、その気もない。
俺がやるべきことは終わっただろう。
俺は二人の会話を傍観した。
「ごめんなさい、そうじゃないの。私は、皐月ちゃんの母親として……また同じことを繰り返すんじゃないかって、怖いの……」
「それは、私があなたを愛していないからですか?」
「違うわ……私が皐月ちゃんを愛せているか、自信がないからよ」
きっとコイツは、もう同じ過ちは繰り返さないだろう。
自分の犯した罪が何かを理解して、反省している。
それから――皐月のことを、ちゃんと考えられている。
それで罪がなくなるわけではないけど。
俺はなんとなく、大丈夫なんじゃないかと確信していた。
「私、愛されたいです……あなたに」
皐月は座り込んで、母親と同じ目線にする。
「私も……愛したいわ、皐月ちゃんを」
なんだ、利害が一致しているじゃないか。余計に俺は部外者だ。
ただまぁ、俺が来たことは無駄ではなかっただろう。
二人はお互いに支え合いながら立ち上がる。
皐月の母親は、優しく微笑んだ。
「今日はありがとうね、理人くん。また来てね……と言いたいところだけど、もう顔を合わせるのは、遠慮したいわ」
「……そのつもりです」
俺達は娘の友達と、その友達の母親として接する。