亘さんは世渡り上手


俺がこの会話に口出す筋合いはない。大体、その気もない。


俺がやるべきことは終わっただろう。


俺は二人の会話を傍観した。



「ごめんなさい、そうじゃないの。私は、皐月ちゃんの母親として……また同じことを繰り返すんじゃないかって、怖いの……」


「それは、私があなたを愛していないからですか?」


「違うわ……私が皐月ちゃんを愛せているか、自信がないからよ」



きっとコイツは、もう同じ過ちは繰り返さないだろう。


自分の犯した罪が何かを理解して、反省している。


それから――皐月のことを、ちゃんと考えられている。


それで罪がなくなるわけではないけど。


俺はなんとなく、大丈夫なんじゃないかと確信していた。



「私、愛されたいです……あなたに」



皐月は座り込んで、母親と同じ目線にする。



「私も……愛したいわ、皐月ちゃんを」



なんだ、利害が一致しているじゃないか。余計に俺は部外者だ。


ただまぁ、俺が来たことは無駄ではなかっただろう。


二人はお互いに支え合いながら立ち上がる。


皐月の母親は、優しく微笑んだ。



「今日はありがとうね、理人くん(・・・・)。また来てね……と言いたいところだけど、もう顔を合わせるのは、遠慮したいわ」


「……そのつもりです」



俺達は娘の友達と、その友達の母親として接する。

< 245 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop