亘さんは世渡り上手
「啓介くんっ……!」
高橋の姿を捉えた途端、皐月は支えられていた俺の腕から離れて高橋へ飛び込んだ。
「わっ! 皐月ちゃん……! ぶ、無事でよかった~!」
ぎゅう、と抱き締め返す高橋。
ずっと無視されてたくせに、よく一番に安心が出てくるもんだ。
あの日の元気のない高橋はどこかへ行っている。俺は、それがなんといっても嬉しかった。
「ごめん、ごめん啓介くん……」
そしうして皐月は、これまでの経緯を包み隠さず話し出した。
母がいなかったこと。母がほしかったこと。俺との関係性。
結果的に、俺の隠していた過去も高橋に知られてしまったわけだけど。
「理人くんに来てもらうためなら、どんな手だって使う気でいたけど……いろんな人にたくさん心配させちゃってた。本当にごめんなさい」
深々と頭を下げる皐月に、高橋はどうすればいいのかわからないのかあわてふためく。
「あっ、えっと、ん~~」
皐月が無事だったのは嬉しいけど、今までの行動が許せるかというとそうでもないらしい。
返す言葉を迷っているみたいなので、俺から助言することにした。
「皐月のこと、嫌いになったか?」
そう言えば、ハッとした顔をして高橋はブンブンと首を振って否定する。首が折れそうなくらい必死なそれは、どう見たって全力だ。