亘さんは世渡り上手
俺は皐月の良いところがどこかいまいちわからないが、高橋は知っているのだろう。
まだ別れようとしない姿勢から見て、彼女のことを大事に思うのが手にとるように見えた。
「も、もう一回始めからやり直そうよ、皐月ちゃん!」
「啓介くん……」
「俺、皐月ちゃんに好きになってもらえるように努力するから! だから、また友達からでも……」
「ううん」
言いかけた高橋の手を皐月が両手で握る。
「彼女が、いいな」
あたりまえだ。ここまで言ってくれる男に対して、友達からやり直そうなんて生ぬるいこと言わせるものか。
また熱く抱き合う高橋と皐月。
完全に二人だけの世界に入ってしまっている。気まずすぎていたたまれない気持ちになるから、公共の場であんまりイチャイチャしてほしくないんだけど。
影の薄い俺と亘さんは、横並びになってそっと目を合わせた。
わかったのは、心底嬉しそうに笑う亘さんと、その大きな瞳に映る俺の緩んだ口角だけだ。
「わたし達も、あんな風になれたらいいですね」
ひっそり話しかけてくる亘さん。
え? それって、亘さんも俺とイチャイチャしたいと思ってるってこと?
抱き締めたい衝動に駆られるが……目の前のバカップルを見て、思い止まった。
危ない危ない……。