亘さんは世渡り上手
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「父さん。俺、母さんに会ったよ」
ガシャン、と音をたてて皿が割れた。
父さんは手から滑り落ちた皿なんて気にする素振りも見せず、信じられないような顔で俺を見ている。
「……ど、どういうことだ、理人」
「どういうって、言葉通り。俺の、産みの母親に会ったんだよ」
強く肩を掴まれた。
「そういうことを聞いてるんじゃない! なんであの女に会ったんだって聞いてるんだ!」
「母さん、再婚してたよ」
「……っ、理人!」
「俺の友達の母親になってた」
「そんなこと、どうでもいい」
「世間って狭いね」
「俺の話を聞け!」
俺は肩に乗る手をゆっくりと払う。
「友達が母さんのせいで悲しんでた。だから会って一言話しただけだよ」
「っ、あいつは、別のところに言っても同じことを……」
「全然違うよ。ちゃんと約束してきたんだ、今の家族が本当の家族で、俺はもう他人だと思ってって」
「……っ」
父さんはギリギリと歯を食いしばって、なんとか手が出そうな勢いを食い止めている。
確かに、これは、俺の生まれて初めて父親にした反抗だったかもしれない。