亘さんは世渡り上手
でも俺はそのことを後悔していない。
アイツはもう皐月の母親で、俺達には関係のない存在だ。関係のない存在にするために会ったんだから、後悔するわけがない。
決して逸らすことのない俺の目を見て、父さんは引き下がってくれた。無気力に笑って、頭を押さえる。
「はは、ほんと……子どもっていうのは、親の知らないところで成長するもんなんだな」
参ったよ、とこぼす父さん。
「俺の方が成長できていなかったんだな」
「ううん。父さんは正しいよ。関わっちゃいけない存在に関わらないっていうのは、一番の対処法だよ」
俺の場合、今回はそれに高橋の元気を取り戻したいっていう目的があっただけで。
普通ならそうするだろう。
「やっぱり……父さんの方がダメみたいだ」
手が伸びてきて――ぎゅっと抱擁される。
二人きりになってから何度もされた、暖かくて落ち着く場所。
「これとも、もうさよならなわけだ」
「父さんがしたかったらしてもいいよ」
「しないよ。もうしない」
ゆっくりと体が離される。
名残惜しい気もしたけど……確かに、もう俺達には必要ないものだ。
「お皿片付けるな。理人、手伝ってくれるか?」
「うん、もちろん」
俺達はもう、悲劇の家族なんかじゃない。