亘さんは世渡り上手
でも俺たち、実はキスもまだなんだよな。
据え膳なんとか……とかいう言葉はあるけど、順序はちゃんとしたい。
「亘さん。気持ちは嬉しいけど、俺……」
「すぅ…………」
「……………………は?」
すぅ?????
亘さんは俺に寄りかかって、目を閉じていた。俺の胸をまくらにして、どんどん体重をかけてくる。
俺は抵抗するのも馬鹿らしくなって、そのまま後ろに倒れ込んだ。
いや……寝てんじゃねーよ。俺の期待と真摯な態度を返せ。
くそ、寝顔可愛いな。
「何安心してるんだよ、ばーか」
亘さんの頭を撫でる。髪に指を通すと、絡まることを知らない黒髪はすんなりと受け入れてくれた。
思えば亘さんも俺に散々付き合ってくれたんだもんな。そりゃ、俺と同じくらい疲れてるか。むしろ、心労的には亘さんの方が上かもしれない。
さっきまであんなに顔を赤くしてたっていうのに、急に無防備になりやがって。
「お疲れ様、亘さん……」
ほら、俺もなんか、つられて眠くなってきたじゃん……。
――――そして俺達が目覚めたのは、父さんの今にも泣き出しそうな叫び声が響き渡った後だった。