亘さんは世渡り上手


ダメなわけがない。


ダメなわけはないけど……父さんにあれだけ釘を刺されておいて、もう破るのか。



「わたし達、あまりこうする機会がないじゃないですか」


「……そ、そうだな」



ダメだ。心臓が。



「恋人らしいことって……わたしにはわかりませんけど、わたしはこうしていたいって思うんです」



亘さんが頬を俺の背中に擦り付けてきているのがわかる。


い、以外と甘えん坊だったのか、亘さんって。


俺の鼓動は最早全身に響き渡り、血の巡りの良さで体が熱い。


我慢しろ。ここはそういう場面ではない。いやそういう場面なんだけど。でもそうじゃない。



「好きです、和泉くん……」



――――ダメだ、亘さん。


その告白で、俺は一瞬体が自分のものではないのかというくらい勝手に動いた。


制御がきかない。理性が飛ぶって、こういうことなのか。



「きゃっ、和泉く――」



亘さんの顔がすぐ近く。ちょっと驚いたような顔で、目を見開いて。


でも、それも一瞬だ。ゆっくりと閉じていく。



「ん……」



やっとのファーストキス。


亘さんの唇は柔らかくて、なんだか甘い気がした。


父さん、これはアウトですか。


男なら共感してくれてもいいんじゃないですか。

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