亘さんは世渡り上手
亘さんは指先を唇に当てて、俺のことを上目遣いで見上げてきた。
顔は赤いし、若干涙目にもなっているので、理性が試されているようにしか思えない。
「あの、和泉くんとのキス、が……」
あー、これ……
「もっとしたいって、ずっと、ずっと頭の中でこだましていて……」
たぶん、誘われてるんだ。
そんな気がなかったなんて言わせない。これで誘ってなかったら、どういうつもりなんだと怒りがわいてくるほどだ。
「自分がこんな……へ、変態だったなんて思ってなかったんです。わ、わたし、欲求不満だったんでしょうか……」
亘さんから次々と出てくる似合わない単語達。
ひとつ聞くたびに煽られている気分になって、心臓がバクバクと暴れた。
「……そんなによかったんだ?」
俺は極めて冷静に対処しようとする。
でも、できていないだろう。
その証拠に、胸の奥から溢れてくる喜びのような感情が押し留められない。
「き、気持ち悪いって思いませんか!? 今日ずっとこんなこと考えてたんですよ!?」
「全然? 可愛いとしか思ってないけど」
「じゃあ、その……。またしてくれますか?」
またと言わず、すぐにでも――。
と、言いたいところだけど、こんな道端でするような非常識な人間にはなりたくないな。
……後でゆっくり楽しむか。