亘さんは世渡り上手


亘さんは指先を唇に当てて、俺のことを上目遣いで見上げてきた。


顔は赤いし、若干涙目にもなっているので、理性が試されているようにしか思えない。



「あの、和泉くんとのキス、が……」



あー、これ……



「もっとしたいって、ずっと、ずっと頭の中でこだましていて……」



たぶん、誘われてるんだ。


そんな気がなかったなんて言わせない。これで誘ってなかったら、どういうつもりなんだと怒りがわいてくるほどだ。



「自分がこんな……へ、変態だったなんて思ってなかったんです。わ、わたし、欲求不満だったんでしょうか……」



亘さんから次々と出てくる似合わない単語達。


ひとつ聞くたびに煽られている気分になって、心臓がバクバクと暴れた。



「……そんなによかったんだ?」



俺は極めて冷静に対処しようとする。


でも、できていないだろう。


その証拠に、胸の奥から溢れてくる喜びのような感情が押し留められない。



「き、気持ち悪いって思いませんか!? 今日ずっとこんなこと考えてたんですよ!?」


「全然? 可愛いとしか思ってないけど」


「じゃあ、その……。またしてくれますか?」



またと言わず、すぐにでも――。


と、言いたいところだけど、こんな道端でするような非常識な人間にはなりたくないな。


……後でゆっくり楽しむか。

< 262 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop