亘さんは世渡り上手
俺は家の事情が事情なのであまり物欲の多い方ではなかったし、願わなくても亘さんはそばにいてくれる。
それ以外にほしいものなんて、ない。
「逆に、亘さんは? ほしいものあるの?」
あまりにも思い付かなかったから亘さんに投げた。
不服そうに唇を噛み締められたけど、本当に思い付かないんだから仕方ない。
「わたしは………和泉くんからのキスがほしいです」
「ごほっ」
な、何? 今なんて? 気管に唾が入ってむせてしまった。
どうやら俺の聞き間違いではないらしい。
したり顔の亘さんは俺の反応に笑っている。しかし数秒後、顔を真っ赤にして照れていた。
「やっぱり恥ずかしいです……」
「な、慣れないことはするもんじゃないよ」
初めてキスをしてから、亘さんが変な方向に積極的だ。元々積極的な面はあったから、それが恋愛方面に向いただけなんだろうけど。
こっちとしては毎回ひやひやさせられる。俺の理性が保てるかどうかという意味で。
「でも嘘は言っていませんから!」
「……そんなに気に入ったの?」
俺とのキス。
「はい! ……あ。い、いえ、ええと……はい」
勢いよく言ったものの、やっぱり照れて顔を赤くする。
なんか俺もポカポカしてきたな。