亘さんは世渡り上手
亘さんはにっこりと笑った。
何の感情もない笑顔。俺にはそれが……泣いているように、見えた。
「か、叶葉、わ、笑えて……」
「はい。あなたが謝ろうとも、謝らずとも、わたしはの未来は変わらなかったんです」
「そんな……」
「だから……無駄なことは、わざわざしなくてもいいですよ」
「ああぁ……」
「それでは」
亘さんはぺこりとお辞儀すると、俺の腕を取って歩き出した。
気になって振り返れば、彼女はまだそこに立ち止まったままだ。
「いいんです、和泉くん。気にしないでください」
亘さんから釘を刺される。
「本当に?」
でも、俺はどうしてもそれが本心だとは思えなかった。
だって亘さんは人の気持ちを考えられる人だ。
「あの人は、一生後悔したままなんじゃない?」
「……」
「いいの?」
何があったかは知らないけど、亘さんの顔を見れば大体わかる。
ずっと暗いままだ。全然、心は晴れてないんじゃないか。
俺はもう一度振り返る。
やっぱり、彼女はそこに立ち尽くしていた。
通行人が嫌な顔をして避けていく。時折ぶつかれば、嫌味を言われて謝っていた。