亘さんは世渡り上手
「……っ」
亘さんも、恐る恐るその光景を目にしている。
何かまだ気がかりなことがあるなら、すっきりしてほしい。
俺は全部終わった。その結果、今が一番幸せだと言えるだろう。
それが、もし何かひとつでも残っていたら……俺は、ここまで幸せに生きていけていただろうか。
「本当に、忘れてもいいことなのに……」
小さくこぼす亘さん。
「……それを言ってあげたら、いいんじゃないか?」
亘さんは走り出した。
「七瀬ちゃん!」
バチンッ!!
なんとも悲痛な音が響き渡った。
亘さんが、振り向いた彼女の頬を平手打ちしたのだ。その証拠に、段々と彼女の頬には亘さんの手形が浮き上がっていく。
「かっ、叶葉――」
「忘れてください! わたしは気にしてないって言ってるんです! 許すどころか、前提として怒ってもなかったってことです!!」
亘さんがここまで感情的に怒るところを見るのは初めてだった。
「ここまで言ってもわからないんですか!?」
七瀬と呼ばれた女子は、ただ呆然と亘さんを見ている。
亘さんはそれを理解していないと捉えて、もう一度叱咤しようと息を吸った。