亘さんは世渡り上手
「ま、待って! わかったから……」
七瀬さんはストップをかける。
それに応じて、口を閉じた亘さん。ふぅ、と吸った息を戻していた。
「ならいいんです」
「うん……。あの……。私たち、友達に戻れるかな……」
「いいですよ」
「本当っ!?」
「はい。最も、わたしには大好きな親友と恋人が、もういますけどね」
「今さら一番になろうなんて思わないよ……」
「そうですか?」
二人は顔を見合わせて、穏やかに笑い出す。
……すごいなぁ、亘さんは。
俺ができなかったことを、簡単にやってのけてしまう。
許すどころか、怒ってもない――か。俺もそんな風に言えていたらよかったんだろうか。
まぁ、もう遅いけど。
俺が決別を選んだのに対して、亘さんは一番を引き換えに元に戻ることを選んだんだ。
二人がラインを交換し出すのをぼんやりと眺める。
七瀬さんは心から嬉しそうな表情で、目尻に少し涙がにじんでいた。
「じゃあ、わたし達はデートの続きに行きますから」
「あっ……ま、またね! 絶対また会おうね!」
ぶんぶんと手を大きく振ってくる七瀬さんに、亘さんはくすくすと笑う。
再び絡まった手は、すっかり元の温かさに戻っていたのだった。