亘さんは世渡り上手



「俺この後彼女と約束あるから、急ぐわ。じゃ」



宇佐美ですらこの態度で、高橋のストレスはじわじわと溜まっているものだろう。


俺と亘さんもこの後……。でも、それをここで言うのは少し心苦しい。例えなんとなく察されていたとしても。


亘さんも同じ気持ちだったらしい。高橋を気遣って、話を別の方向に逸らそうとする。



「ええと……冬休みの間、宿題が難しかったときはまた勉強会しましょうか?」


「うぅ、委員長……ありがとな……っ!」



わざとらしく泣き真似をする高橋。


高橋はこの間の期末でも赤点を回避できていたし、このままいくと並の学力は手に入れられるんじゃないだろうか。



「あ、じゃあさじゃあさ。歴史の宿題にあった、博物館に行ってレポート書くやつ、みんなで行こうよ」



「宇佐美はもういないけど」と付け加えて八木が言った。


そういえばそんなのもあったな。



「せっかくだし、皐月も呼ぶか?」



博物館でデートなんて、マニアックな方かもしれないから、頷くかは知らないけど。


少しでも一緒にいる口実があるほうが誘いやすいだろう。



「マジおまえら良いやつ!」



泣き真似のつもりが、本当に涙を流し始める高橋。


俺からしたら、おまえの方がよっぽどなんだけどなぁ。

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