亘さんは世渡り上手


そんなこんなで二学期最後の下校が終わり、家で新調した服に身を包む。


オシャレには気を遣いつつも、シンプルな服装。父さんからは「とにかく清潔感が大事だ」と力説され、結局ほとんど父さんが選んだ服となっている。



「よし」



マフラーを巻き、コートを羽織ってお土産の袋を持つと、玄関のドアへと手をかけた。


心臓が尋常じゃないくらい暴れている。



「はぁ……」



何気なく出した白い息が空を舞う。


そうか……もう冬なのか。


去年のクリスマスはどんな感じだったか。確か、父さんと二人で映画を観に行った。


やけにハイテンションなコメディ映画。『今日は笑って過ごそう』というのが父さんの口癖になっていた日だった。


だから俺は、父さんは俺に笑っていてほしいんだって思って笑顔を意識し初めて……。


全部父さんのためだった。


笑うのも、勉強するのも、全部安心してもらうため。


でも、今はもうそんなのなくたって、俺達の間に異様な空気は存在しない。


これは、一般的な高校生の、平凡な日常だ。

< 278 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop