亘さんは世渡り上手
「い、いらっしゃいませ……!」
教えてもらった住所のインターホンを押すと出てきたのは、少し緊張気味な亘さんだった。
淡い色の、レースが何層も重なったワンピースを着ているのに、肌寒そうだなと感じる。
でも可愛い。
指摘した方がいいだろうか……と考えている間に、亘さんの後ろからバタバタと誰かが近付いてくる足音。
「彼氏来た!? こんにちは~! ……って、やば! ちょーイケメンじゃん!?」
ひょっこりと、亘さんを活発にしたような女の子が現れる。
「初めまして、和泉理人です」
「妹の希望です! よろしく~! ……ちょっとお姉ちゃん! 絶対手放さないようにしなよ!」
妹がつんつんと肘で突くと、それに嬉しいような恥ずかしいような表情を返す亘さん。
「も、もう、希望……。和泉くん、どうぞ入ってください」
おじゃまします、と言って玄関へ足を踏み入れる。
そうか、この家では亘さんの敬語が取れた会話を聞けるんだ。新鮮でわくわくする。
……あ、服装のこと言いそびれたな。
こういうのが積み重なってダメになっていくんだ。素直にならないと。
「亘さん」
「はい?」
廊下で案内されながら、半歩後ろで声をかける。
「今日も可愛い」
あ、ちょっと言い方間違えた。
ま、いいか。嘘ではないし。