亘さんは世渡り上手
亘さんはまだ教えるのに苦戦している。主に高橋がぎゃあぎゃあと騒ぐもんだから、耳が痛い。
亘さん以外は高橋を相手にもしていなかった。俺と谷口も向かい合ってカリカリと紙に文字を書いていく。
「……理人って、意外と真面目だよね」
「意外とって言うな」
「あはは、ごめんって。素直にすごいなって思ってるんだよ」
「……」
だって俺は、父さんを悲しませるわけにはいかない。
だから、ちゃんと勉強して、安定したところに就職して、父さんを喜ばせないと。
「委員長すげぇ……俺、初めて勉強理解できたかも……」
「それはよかったです」
あれ、いつの間にか亘さんは高橋を掌握できてる。あのうるさかった高橋を、静かに勉強させられるなんて……。
高橋が静かなところなんて初めて見た。
それは、ここにいる誰もが思っていたことのようで、周りを見ても口を半開きにして高橋を見る姿しかない。
それに気付いた亘さんが満足そうに口を開いた。
「みなさん、テスト頑張りましょうね」
亘さんは……俺が思っていた以上にすごい人なのかもしれない……。
亘さんなめてた。