亘さんは世渡り上手
ホームルームが終わって、ぞろぞろとクラスメートが帰っていく。
俺の目は亘さんを追いかける。亘さんは、友達に話しかけられたり、話しかけたりしていてまだ帰ってない。
あ、あれ、もしかして俺……緊張してる?
たかが亘さんを映画に誘うだけだろ?
やばい、やばい。この調子で亘さんに話しかけたら、俺がデートの経験なんてないのがバレてしまう。
いつもあんな余裕そうに振る舞ってるのに、実は耐性がないなんて絶対に思われたくない。
ゆっくり深呼吸する。
「……っ、わ、亘さん」
……噛んだ。
「和泉くん」
亘さんが振り向いた瞬間、周りの雰囲気がほわっと明るくなった。
……う、うん? なんだこれ。
「最近、よく話しかけてくれますよね」
「え」
「嬉しいです」
そうやって柔らかく笑えば可愛いものの、亘さんは無表情だ。
だけど、嬉しそうな雰囲気だけは伝わってきて、罪悪感が強くなる。