亘さんは世渡り上手

■■■



「あの……昨日はすみませんでした」



翌日、なぜか俺は亘さんに謝られていた。


びっくりした。人の少ないところに連れていくから、告白かと思った。


内心びくびくしながら付いていった時間を返してほしい。



「なにが?」


「楽しくなかったんですよね。実は、最初にクラス全員で遊びたいと言ったのはわたしなんです。だから、もっと相談してから場所を決めるべきでした」



あー、なるほど。


亘さんは、カラオケだったから俺が楽しくなかったって思ってるんだ。



「いやー、こんななりして言うことじゃないんだけど、俺あんまり人多いの好きじゃないんだよね」



これは本当だ。


大勢で行動することのメリットがわからない。


でも、俺の周りには自然と人が集まってきてしまうから、放課後くらいはゆっくりしたかった。



「なるほど、わかりました」



亘さんはそう言うと、胸ポケットからメモ帳とペンを取り出して何かを書いていく。



「それ何?」


「クラスのみなさんについての情報をメモしているんです。わたし、クラス委員長なので、広く周りを見ていたくて」



えー、きも。



「えー、きも」



あ、やば、声に出しちゃった。

< 5 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop