亘さんは世渡り上手
「俺、亘さんのことが気になってるんだ」
そうしてにっこりと笑うと、席から離れて亘さんの元へ行くことにした。
谷口のぽかんとした表情が頭にこびりつく。
……これで、よかったんだよな?
「わーたりさん」
気を取り直して亘さんに話しかける。
「あっ! ま、負けました……」
「……何が?」
「次は絶対、わたしから和泉くんに話しかけようと思ってたんです……」
なんでそれで勝ち負けがつくんだよ。
「いつも和泉くんから話しかけてくれるから、なんだか申し訳なくて……」
「うーん、別に、俺が話しかけたいから話しかけてるだけだしなぁ」
そんなに気にすることでもないと思うんだけど。
特に今日は、逃げるために話しかけたようなものだし。
「わたしが和泉くんより後ろの席だったら、いつでも和泉くんを監視できて、話しかけるタイミングも決められるのに……」
「絶対やめて」
反射的に否定したけど、実際俺がやってた気がするからなんか心がえぐられたわ。